せつ菜と歩夢とあの子のケーキ
「あれ、歩夢さん、何をしているんですか?」
ライフデザイン学科のスイーツ発表会も終わり、人もまばらになった頃、調理室で歩夢は一人で作業をしていた。その様子を見た中川菜々――もといせつ菜は話しかける。
「余った材料でケーキを作ってるの。スイーツも完売しちゃったし、あの子、スイーツを食べずに行っちゃったからなにか用意してあげたくて」
「それはいいですね! 絵里さんたちの構内案内をお願いしてしまいましたし、せっかくですからスイーツを食べてもらいたいですね。それでは、私もまたスペシャルせつ菜ケーキを……」
「それはだめーーーー!!!!!」
突然叫ぶ歩夢。それに驚くせつ菜と、周囲に残る他の生徒たち。
「え? ど、どうしたんですか歩夢さん……?」
「あっ、えっと、あの……」
「どうしたのなにかあった?」
その様子を見ていた他の生徒が様子を探るように話しかけてくる。
「な、ななんでもないです。ごめんなさい、大きな声を出してしまって……」
それに対して歩夢はぎこちなく返答する。
訝しげな様子を見せる生徒だったが変なのが歩夢だけと見ると大したことでないと判断したらしい。
「なんでもないならいいんだけど。それより中川さん、私たちそろそろ片付けが終わるんだけど、部屋の戸締まりをお願いしてもいいかな?」
「はい。私たちはもう少し残りますのでしっかりと戸締まりをしておきます」
「せ、せつ菜ちゃ……」
「あわわ、歩夢さん!!!??」
突然慌てだし、歩夢の口を押さえるせつ菜。歩夢は苦しそうにもがもがと苦しみだす。
「ど、どうしたの、そんなに慌てて。君たちなんかおかしいよ」
「な、なんでもありません。戸締まりはしっかりしておきますので、あははは……」
先程よりあからさまに訝しげな様子を見せる生徒だったが、普段見せない生徒会長の笑いを見て関わらないほうがいいと判断したのか、それじゃよろしくと言ってその場を立ち去った。
歩夢はせつ菜の拘束を振りほどくと大きく息を吸い込む。
「せ、せつ菜ちゃん……」
「強引な手を使ってしまいすみません、歩夢さん。しかし、いまの私は優木せつ菜ではなく、中川菜々でしたので仕方なく」
「ううん、ごめんね、私もうっかりを口を滑らせちゃって」
「それより先程はいったいどうしたんですか?」
「あ、えっとね、そう、あの子は少食だからたぶんケーキを作っても食べられないかなーと思って。食べられなかったらもったいないし、材料もそんなに余ってないから難しいかなって」
「さすが歩夢さん、幼馴染だからよくご存知なんですね。それでしたら、スペシャルせつ菜ケーキはまたの機会にしましょう」
「あはは……そのときは私もお手伝いするね」
「ありがとうございます! それは助かります!」
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