記憶喪失な私と偽りのお姉様

眼が覚めると、見覚えのない天井が目に移り、私は知らない個室の知らないベッドで横たわっていた。

・・・・・・体の全身が痛み、頭には包帯が巻かれ、右腕には点滴が打ってある。という事はここは病院という事。

何か事故に巻き込まれたのか? そんな事を淡々と考えるけど。この状況になったのか思い出せない・・・・・・いや、それ以前にわからない事がある。

私が誰なのか、思い出せない。

「・・・・・・」
少し気分を変えるために、ふと風を浴びたいと思う。私は蹌踉めく身体を何とか保ち、窓の方にへと歩く。

記憶が無いことが気持ち悪い、私はどうしてこんな事になったんだろう、どうして何も思い出せないのだろう。
そんな押し殺しても殺しきれない晴れない気持ちを思いながら、鍵を解き、そっと窓を開けようとする。

すると、ドアが静かに開く音が聞こえ始めた。

一体誰だろう、少し興味をそそられる。
母親?父親?・・・・・・とは思っても何も覚えてないから顔を見たところで分かるはずがない。

でも、きっと顔を見れば何か思い出すかも知れない。私は少し怯えながらも

「誰・・・・・・ですか?」

と一言、そして振り向いた。


「私ですわ、善子さん。」

この部屋に入ってきたのは黒髪のロングヘアーのエメラルドグリーンの美しい瞳をした女性だった。「善子」と私の名前らしきものを呼んでいたが、母親にしてはすごく若すぎる。

「善子さん?」

「はいっ!?」

行けない、ボーッとしていた。私はあの女性に関心を持っていた。

でも・・・・・・何1つ記憶を思い出す事はない。

私がそんな事で悩んでる事なんて知るよりも無く、女性はしかめっ面をし、淡々と私に話しかけてくる。

「全くボーッとしてて・・・・・・」

ーー待ってよ、私は全くわからないのに話を進めないでよ。

「しかも浮かない顔ばかりして・・・・・・いつもの堕天!はしないのですか?」

ーーお願いだから、勝手に1人で話を進めないでよ・・・・・・

「・・・・・・善子さん?」

ーー私は・・・・・・

「あの・・・どちら様でしょうか?」

私は彼女に言いづらくとも「誰?」と伝えた。
・・・・・・だってあなたの事は、何一つ何もわからないんだから。


「・・・・・・えっ?」
さっきまでしていたしかめっ面は一気に崩れ落ち、小さく口を開け、まるで時が止まったかのように固まった表情に変わる。

「すみません・・・・・・私、あなたの事がわからないんです。何も思い出せないんです・・・・・・」

すると彼女は右手で口を押さえた。
「嘘でしょう・・・・・・?」
そして涙を浮かべ、小さく悲しむように呟いた。

これ以上何か言ったらまずい、すぐさま話題を変えようとする。

「・・・・・・そうですか・・・・・・」
しかしすぐさま気持ちを切り替えた姿勢を取り、急に私の頭を撫でてくる。

「・・・・・・あ、あの・・・・・・あなたって私の・・・・・・」

彼女が私にとって何なのか、問い出してみた。

「妹・・・・・・ですわ。」

妹・・・・・・私はこの人の妹だったのか?
記憶が無い今、普通は疑心暗鬼になるものだけど、何故かこの人の言葉だけは信じられる。

「あなたは私の妹ですのよ? 善子。」

さっきはさん付けだったのに、急に呼び捨てに変わった。でもそんな事はあまり気にならなかった。

「・・・・・・なんで呼んでたの?」

「え?」

「・・・・・・あなたの事をなんて呼び方してたか知りたいの。」

今度は姉の事をどう呼んでいたか聞いてみた。

「・・・・・・善子は厨二病拗らせてたから、私の事は”お姉様”って呼んでましたわ。」

彼女は・・・・・・お姉様は優しい顔をして、私の質問にそっと答えてくれた。

というか私、厨二病だったんだ。そんな事で内で少し苦笑いしてしまう。

その他にも私に関する事を色々と聞かせてもらった。
苗字は黒澤、16歳の高校2年 お姉様は公務員、私と二人暮らし・・・・・・色々と私に関する最低限の事を教えてもらった。

「それじゃあ私はそろそろ行きますわね、明日もまた必ず・・・・・・来ますわね。」
それが終わるとニッコリと微笑み、この部屋を出た。

そして
「・・・・・・お姉様って・・・・・・素敵。」
彼女に対する今の心境を呟いた。



事故があってから1週間、記憶は戻らないままだったけど、私の入院生活は充実してた日々だった。

毎日の様にお姉様が私のお見舞いに来て、どんな時でも側に着いてくれた。

休みの過ごし方、私が厨二病してた頃、よくわからないけど 時には仕事の愚痴に付き合ってあげたりと素朴な話ばかりだったけど、記憶のない私にとっては凄く楽しい話ばかりだった。

でも1日だけ来ない日があった。退院2日前
その時は雨の日だった。まるでお姉様の悲しき感情を代わりに表している様な天気だった。

そして次の日、退院する1日前。
お姉様は沢山泣いたかの様に顔が少しむくみ、クマだらけである目の周りを真っ赤に染めていた。

「昨日は来なかったけど・・・・・・何かあったの?」

「その・・・・・・急用ですわ。」
何か誤魔化してる感じがあった。表情もいつもの微笑みはどこにも無く、どこか光を無くした寂しい目で私を見つめる。

何か悲しく苦しい事があったんだろうと察知し、あまり深く追求はしなかった。


するとお姉様、突然と椅子から立ち上がり

「そういえば明日は退院日、また一緒に暮らせますね!」

咄嗟に思い出したかの様に、退院の事に触れ始め、さっきの表情から一変、鼻息を荒くして興奮気味に言ってくる。

「あはは・・・・・・」
表では苦笑いをしてるが実を言うと、私もお姉様と暮らす事を心待ちにしてた。
でも目が死にかけている彼女と暮らしてと楽しい日常なんて送れない。

何か元気づける事はないか、考えた。



「そ、そうね・・・・・・クックッ・・・・・・この堕天使ヨハネとまた暮らせる事に感謝の意を表すことね!・・・・・・なんてね、お姉様。可愛らしくお姉ちゃんの方が良かった?」


ふと思いついたのが、記憶を失う前の私・・・・・・堕天使ヨハネの真似で照れ隠しに喜びの感情を表し、元気づける。

しかし辺りは一面静まり返り、少し気まずい空気と化する。

「あっ・・・・・・その・・・・・・なんかごめんなさい・・・・・・」
流れを変えてしまった事に申し訳無さを感じ、掛ける言葉もつまずいてしまう。

「・・・・・・ふふっ・・・・・・まったくあなたって人は。それがいつものあなただったんですから、別に謝らなくても宜しいのですよ?」

しかしお姉様は”いつも通りの私”と論じて、さっきの死んだ様な目から少し光を取り戻した目に移り変わり、表情も少し柔らかくなり、いつもの様に私に微笑みかけた。


「では、そろそろ行きますわね。善子も残りの時間もちゃんと良い子で過ごすのよ?」

「大丈夫よ、それより今日はお見送りしていい?」

「まったく寂しがり屋さんなんだから・・・・・・良いですわよ。」

「感謝するわ、My sister・・・・・・またまたなんてね!」

そして2人で病室を後に、フロアの所で私はお姉様の見送りを済ませて部屋の扉の前までに着く。

入ろうとした時、ふと途端にネームプレートが目に入る。

体が思うように動かす事が出来ず、今日まで自ら病室を出た事が無い為、それを見ることが無かった。

それに名前は教えてもらったけど、漢字までは聞いておらず、私は少しの興味で記されている自分の名前を覗く。

そこには【津島 善子】を記されてあった。

ーーってあれ?
私って確か黒澤だったよね? 津島なんて名前じゃない・・・・・・
看護師さんからも苗字で呼ばれた事無かったし・・・・・・謎が深まるばかり。

でも私は単純に考えた。きっとミスなんだろうと。
深く考えず、そう頭の中で自己解決して眠気を誘うとあくびをして戻っていった。



時は流れ、退院当日。
今日は天気が良く、凄く清々しい気分だった。

見送りには私を担当してた看護師さんやお医者さんが付いててくれていた。

「良かったね、善子ちゃん。」

「うん、だってまたお姉様と暮らせるんだ・・・・・・って言っても前の記憶無いんだけどね・・・・・・えへへ。」

口ではネガティブ思考な事を言ってるけど、前日の夜 私は考えた。別に記憶がなくても、また新しい思い出を作ればいいんだと。


そんな内で、1台の黒車が私の前に停車してきた。
お姉様の車だった。

「お待たせ善子、あなたは後ろのお席にお乗りなさい。」

窓を開け、今日はいつもより輝きが身がかれた笑顔を見せて「車に乗って」と言ってくる。

私も負けないような笑顔を彼女に向けて頷き、颯爽と後ろの座席に乗車する。

すると車は直ぐに発車し、最後に私は大慌てで病院のスタッフ達に手を振る。しかしその最後と言うのは、あまり気分の良い別れでは無かった。
何故なら全員が顔に少しシワを寄せ集め、口元をMの字に、何か心配そうにこちらを見ていたから。

何か隠し事をしているのかな?と、なんて事は当然思ってはなく、ただ私と離れるのが名残惜しいのかなと単純な考えをしていた。

ただの1つも察する事も無く、病院から遠のいていき、私はただお姉様の車に揺られて、外景色と晴れ渡る青空をジッと見上げているだけだった。

そして20分ぐらい経った頃、家と思われる場所に到着した。

車から降り、日を照らす太陽を遮り前を見ると、そこは赤や橙と塗装されていたマンションだった。

「ここが、あなたと私の家ですわよ。」

「ここが・・・・・・うん・・・・・・!」

凄く嬉しかった、記憶が無くてもこうやって帰れる場所、私をいつまでも迎い入れてくれる場所が存在し続ける事が。

でも何か違和感があった。違和感が・・・・・・
その違和感を引き起こす片隅にある失いつつも失いきれていないある過去の記憶が何か感じさせている。

確かマンションは紺色の塗装がされていたはず、塗り替えがあったとしても1週間では済むはずでは無い。

「どうしましたの?ボーッとして。」

「あ、いや・・・・・・別になんでもないわ。」
ずっと考えていた為、お姉様に心配されてしまった。
今までは他人の言動や行動に不思議な感じがしてたけど、勝手な思惑で理解した気になっていたけど今回は違う。

微かに記憶があるだけで、悩みは一層深まるもの、しかしお姉様にまた心配をかけさせるわけには行かない。私はモヤモヤした気持ちのままで2人で並び寄り、自分達の部屋を目指す。


エレベーターで4階に進み、部屋番号【445】と書かれる部屋に辿り着く。ここが私の住んでいる場所なのかと自分の家なのにちょっと新鮮な気分。記憶喪失だから当然か。

「さ、あなたの家。いつも通りお寛ぎなさい。」

「はーい。」

いつも通り・・・・・・とは言っても私の日常はどんな感じなのかわからない。つい悩んでしまうから、いつもいつもお姉様は記憶喪失って事を忘れて物を言うから少し困ったもの。

そんな事を考えながら、私は足で靴を脱ぎ、リビングに行こうとする。


「お待ちなさい善子!靴はちゃんと脱いで並べてといつも言っているでしょう?!」

そしたら突然、靴のことでお姉様が叱りだした。

どうやら私は自然と靴を散らばして脱いでいたみたいだ。

「全くあなたは覚える気がないと・・・・・・そういえば記憶喪失でしたわね・・・・・・ごめんなさい!」

このままお説教を続けるのかと思いきや、こちらの事情を思い出し、私に頭を下げて謝る。

靴を自然と脱ぎ捨てた自分も悪いし、お姉様には直ぐに「顔を上げて」と言い、すぐに顔をを上げて貰った。

しかし靴を自然に脱ぐと言う事は恐らく私の癖。記憶が無くとも、体は覚えているとよく聞くけど正にこう言う事・・・いや、徐々に思い出してると思った方が良いのか、私にはどう言えばいいのかわからない。

一先ず、場所を変えねばと靴を整え、私は部屋のリビングに出向かう。

「・・・・・・」

辺り一面回ってみたが、やっぱり違和感がある。そして頭の中で自然と「知らない 知らない」との私の声をした幻聴で耳が詰まる。

知らないはずなんかない、そう言い聞かせて何か思い出せる手がかりは無いかと、居間や寝室、台所・・・・・・全ての部屋を隅々までを捜索する。

「何やってるんですの?」

「強いて言えば、思い出す為の捜索?」

「そ、そんな事しなくても、貴女の記憶はすぐ戻りますわよ。」

何故か引き止めるお姉様、しかも発したその声は何かに怯えてるかの様に声を震えさせていた。

何か隠してる・・・・・・そう確信つけた。

だから私はそのまま捜索を続けた。
でもお姉様は言い続けた。

「やめなさい!」
と、リピートする音楽の様に私を引き止め続ける。けどやめる気はない、きっとお姉様は事故の記憶を思い出し、心を塞いでしまう恐れがあるからあまり思い出して欲しくないと行動で察する事ができる。

でも私は自分の記憶が欲しい、記憶がない私は・・・・・・本当に私なんだろうか?と疑問に思うんじゃないか?
そんな一心が自然と芽生え、いつの間にか行動に移していた。

「善子・・・・・・」

「・・・・・・これ・・・・・・」

居間を捜索中、あるものを見つけた。それはゲーム機だ。本体もソフトやたらと充実してたものであり、私はゲームが好きだったのかと、興味本位でそれを手に取ってみる。

そしたら、雷が一瞬で落ちたかの様に、脳の中枢が刺激され始め、微かに見つけた記憶が”懐かしい”という気持ちを自然と引き出してきた。

・・・・・・そしていつの間にか黙々と手が回り始め、セッティングを行い、電源を入れ、コントローラーを持っていた。

自然と手が動く、楽しい・・・・・・楽しい!
喜びの感情が湧き上がってくる。

そんな気持ちが着実に増えて行き、アクション、スポーツ、パズル・・・・・・色んなジャンルがありながらも私は齧るほどではあるが、次々と手を出して行った。

「そ、そろそろお辞めになりませんか?」

「ちょっと黙ってて!今いいところなの!」


お姉様のお願いでも、これはやめられない。
だってこれは私の記憶をもっと掘り返せるんじゃないか? そんな淡い期待を胸に、次はRPGゲームを起動させ、セーブデータ選択画面に映る。

そこには 1.ルビィ 2,3共にNo Dataと表示されていた。

私は厨二病だったからルビィと言う名前をつけていたのか?

いや違う、ルビィなんて名前じゃない。

“私はヨハネ”

だから違う、違う・・・・・・違う・・・・・・

しかもこの”ルビィ”って名前、凄く見覚えがあった。

誰だったかな?知り合いだったかな?友達だったかな姉妹だったかな?

あれ?姉妹?そういえば私って姉妹居たっけ?

お姉様ってお姉様だっけ・・・・・・?

そもそも私は・・・・・・本当は誰?


私の頭の中は混乱した、ゲーム中の些細な名前が私を悩ませた。
「私は誰・・・・・・?私は誰・・・・・・?」
頭を抱え、淡々と繰り返し呟く。


「善子・・・・・・?どうしましたの?」

お姉様の呼びかけにも、私は1つも動じず、ずっと同じことを呟くまま。

“そもそもダイヤってお姉様なの?
ダイヤって呼び方、凄く違和感がない、むしろ馴染みもある。”

あれ?あれ?あれ?

・・・・・・

「私は・・・・・・誰・・・・・・?」

この瞬間、私は全てを思い出した。


先週の土曜日 突然とある事に巻き込まれる。そこでパパとママは死んで、友達だったルビィも死んだ。

そして私の名前は・・・・・・津島善子。

それに黒澤ダイヤはルビィの姉で
ーー私の姉ではない。

思い出した記憶により強いショックを受け、周りの景色、お姉様の声も、意識も自然と遮断されて行き、全てが真っ暗となった。

「善子・・・・・・?起きてください!善子!・・・・・・善子さん!」

お姉様・・・・・・いや、ダイヤの声も届く事は無く、私はまた深い眠りについた。



眩しく照らす太陽でまた、私は目覚めた。
そこは前に見た景色と同じ病院の個室病棟。ご丁寧にまた点滴も打ってある。

「・・・・・・またか。」
ふと時間が気になった私は近くに置いてあった時計を見た。丁度昼を回り、そして退院した日から2日が経っていた。

起きて凄くいい気分・・・・・・ではない。そりゃそうだ。

だって全てを・・・・・・”本来の私”を思い出したから。

私は津島善子、通称ヨハネ ただの高校1年生の厨二病
そして黒澤ダイヤは私の友達 黒様ルビィの姉であり、私とはただの知り合いって関係。

つまり私には姉妹なんてものは居ない。つまり私は・・・・・・
“天涯孤独の身”

というわけだ。実際は親戚とかいるのだが、あまり深い関わりもなく、殆ど疎遠の状態。


「・・・・・・」
私はただ黙っているしかなかった。病院の先生達が悲しげな顔をしてた理由もやっとわかった。

・・・・・・自分が混乱中でも、頭の中ではあの事故の忌まわしい記憶が焼き付いてる為、ずっとずっと流れるように思い出される。


事故が起こったあの日、私はママとパパ、そしてルビィの4人で伊豆の国のいちご狩りに出かけていた。

「ルビィ楽しみだなー!ね、善子ちゃん!」

「ヨハネ!ルビィもいちご狩りで喜ぶなんてまだまだ子供「あなたも昨日の夜、楽しみすぎて眠れない!的な事言ってたでしょー?」

「あれー?善子ちゃんー?」

「うっさい!」

「ははは・・・・・・まぁ、今日は楽しむとするか!」

「うん!」

色々と車内の雑談が盛り上がったり、当のメインであるいちご狩りも凄く楽しんだ。

精一杯食べて遊び、一気に疲れ果てた私とルビィは2人で寄り添い、お互いの肩を枕にして寝てしまう。

夢の中でもその思い出が巡り、いい気分だった。

・・・・・・でもこの後、私達の身に悲劇が起こった。

沼津に続く帰り道 日が暮れ始め、私が目覚めると、凄くパパがイライラして車の運転を行っていた。

「・・・・・・パパ・・・・・・どったの・・・・・・?」

「ん?あぁ、起こしてすまないね、ちょっとトラブルがね・・・・・・」

顔をふと覗いてみても、正に怒ってるという感じがあり、ママは凄く心配そうな表情を浮かべていた。

何があったのか知りたくなり、恐る恐るフロントガラス越しに映る正面を見た。すると前にいる黒い車が行為に行く道を邪魔するかの様な運転をしていた。
どうやら私達は、世間で言う事故の原因としても大きく扱われる煽り運転というものに出くわしてしまった。

「煽り運転に出くわしちゃったかぁ・・・」

「・・・・・・このっ!いい加減にしろ!」
我慢の限界に達したパパは遂に激怒した。その大きな発声にびっくりしたルビィは同じく目覚める。

「ピギッ!?」

「ごめんねルビィちゃん、大声出しちゃって・・・・・・あっ!」

「は、はい・・・・・・どうしちゃったのおじさん?」

「煽り運転に出くわしてちゃってキレてるの。」

「な、なんかやな予感しちゃうよぉ・・・・・・」

「ちょっと!不吉な事言わないでよ!」

ルビィの後ろ向きな言葉に不安を煽られ、思わず私は怯えてしまう。
しかしその不吉な予感は・・・・・・

すると突然と車が揺れる様に走行を始める。

「ちょっ・・・・・・パパ・・・・・・」

「なんとか抜け道を見つけるから、大丈夫だ。」

“大丈夫”
この言葉は安心感よりも、私の不安をより煽るものだった。


しかし抜け道が見つかる隙も無く、相手の運転は次第に激しくなって行き、今にも何処かに衝突しそうな感じに変わった行く。

「ま・・・・・・ママ・・・・・・!」

「大丈夫・・・・・・大丈夫だから・・・・・・」

その言葉は聞きたくない。不安が迫る、迫ってくる。
そして徐々に情緒も呼吸乱れて、私は自分を保てなくなっていた。


「・・・・・・やだよ・・・・・・やだよ・・・・・・!」

「善子?」

「よ、善子ちゃん!大丈夫だよ、大丈夫だからだから落ち着いて!」

ルビィもママと同じ事を言う。
“だからその言葉を発さないで、発さないで・・・・・・” 私は心の中でそう叫び続ける。そう叫んだら、きっとバラバラになると感じていたから。

でもその悲痛な叫びも儚く、懲りずにルビィは「大丈夫だから!」とまた私に語りかける・・・・・・

しかしその瞬間、前の車は右のガードレールに追突した。

そして私達が乗る車は止まる事も出来ず、急ブレーキをかける余儀も無く、パパは大急ぎでハンドルを切る。すると私達の車は逆である左のガードレールを突き抜け、森林が広がる草むらに見事葬られる。

幸い自分はドアのレバーが引っかかったのか、身を乗り出し、少し離れた所まで吹き飛ばされて頭の皮膚を少し擦り切るだけで済んだ。

でも3人は違った。

車は大きく転倒した、もはや廃車とも言えるほどの無惨な姿と、その中から少しずつ流れてくる血が目に移った。


そこで記憶は無くなっていて、そのショックが原因で記憶喪失になったんだと思う。

だけど、これだけはわかる・・・・・・パパとママ、そしてルビィは・・・・・・もう居ないって事。

断言の理由は1つ 1日だけダイヤがこちらに訪れなかった日・・・・・・あれはルビィを送り・・・・・・いや、もう過去の事を振り返るのはやめよう。自分の気持ち、そして彼女の気持ちを考えると胸が苦しくなっていく。

でも記憶は深く刻まれ、私の頭から離れない。一度はショックで忘れられたもののはずなのに・・・・・・どうして、どうしてなの?

辛い・・・・・・すごく辛い。生きているのが、全てが辛い。そう考えてると、ある事が思い浮かんできた。

・・・・・・もう自分として、居なくなりたいよ。

私は決断した、1人で生きてても肩身が狭苦しく、辛いだけ。生きてるって実感も湧かない、だったらこのまま命を絶った方が、何より気も楽になる。

そうして私はその為に、腕に刺さってた針を抜き、千鳥足の様な歩き方で屋上に向かおうとする。
しかし扉を開けようと取手を掴もうとするが、その前に誰かが引き開ける。

「・・・・・・目覚めたのですか?善子。」

開けたのはダイヤだった。
出来れば彼女に出会わずに、ひっそりと死にたかった。

「どうして点滴を外してるのです?」

でも巡り会ってしまったのなら、仕方ない。ここで言い逃れも出来ない。

「・・・・・・さようなら。」

「えっ?」

その一言を添えて、私は彼女を避け、不自由な足を蹌踉めかせながら、屋上へ繋がる階段を駆け上がる。

「お待ちなさい!」

「嫌っ!!」

「何故ですの!」

「全部思い出したの!」

何も知らない彼女に、私は記憶が戻った事を大声で告げる。そしてまたすぐ階段を駆け上がる。

「だからって・・・・・・お待ちなさい!」

「嫌!もう辛いのよ私は!・・・・・・生きてるのが・・・・・・」
階段を駆け上がってくたびに聴こえてくる彼女の声と、事故の記憶で流れる涙を拭い、やっと屋上へと辿り着く。しかし彼女もまた少し遅れて辿り着いた。


「死ぬつもりなのですか、善子さん?」

「それ以外にここに来る理由はないわよ、だから止めないで。」

どうしてこの人は、私を強く引き止めるのだろうか。
私は偽りの妹・・・・・・のはずなのに。

「貴女と一緒に帰るまでは止めませんわ。」

「私はあんたの妹でも、ルビィの代わりでもなんでもないのよ!記憶が無かった時も・・・・・・あの子がいなくなった穴を埋める為の道具として使っていた・・・・・・そうでしょ!?」

感情が高ぶり、私はどんな状況においても、彼女に言ってはいけない事を言ってしまった。

ダイヤもルビィを失って苦しいはずなのに、それをわかっていて、私は・・・・・・

その言葉に怒りを覚えたのか、こちらに近づき始め、右手を大きく振りかざそうとする。

きっと叩かれるだろう・・・・・・そう思っていたが、現実は違かった。

「・・・・・・善子。」
私の名前を呼びながら、ダイヤは体をそっと抱きしめてくれた。

「確かに、最初は私はルビィを亡くした悲しみを貴女で埋めようと心の底深くでは思ってたのかも知れません・・・・・・しかし次第にそんな感情は薄れていき、本当の妹の様に接して、微力ながら貴女の心の傷を癒したい、そんな風に変わってました。」

全てを失った自分に、ダイヤは手を差し伸べようとしてくれたんだと実感する。ルビィの代わりでも、偽善でもなく、【妹】として。

なのに私は・・・・・・酷いことを言ってしまったし、自分の命を絶とうとした。

「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・っ・・・・・・ごめんなさぁ・・・・・・い、お姉様・・・・・・!」

私はダイヤの事をまた【お姉様】と呼び、声を荒げ、涙を流しながら必死に謝った。

「私の方も・・・・・・ごめんなさい。善子にこんな苦しい思いをさせてしまって・・・・・・」

そしてお姉様も自分の不甲斐なさを感じながら私に謝ってくれた。

「・・・・・・私はヨハネよぉ・・・・・・」

「そうでしたわね・・・・・・それで、なんで屋上に来たんでしたっけ?」

少し微笑みながら、皮肉な事を言ってくれた。でも私はすっとぼけて「忘れたわ!」の一言で済まし、2人でまた病室に戻っていった。

「明日になったら、帰りましょうか。私達の家に。」

「・・・・・・うん!」

私には断つ理由が・・・・・・無くなったから。




それから私とお姉様は同棲を始めた。少し元とは違い、厳しく、たまに口うるさいところもあるけど、凄く優しいし毎日がとても楽しく、少しずつ傷も癒えてきてる。学校とかも何不自由なく通えている。

そんなある日の事 今日は雨の日だった。

「雨なら送ってって差し上げますわよ?」
お姉様が今日は送迎してくれるという事で私はお言葉に甘えて、そうしてもらった。

そして準備を終わらせ、学校に向かう為に車に乗ろうとその方向に目を向ける。
するとまた、あの時の事故が頭によぎった。

どうしてまたこんな事を・・・・・・と思っていたが、疑問に思う事があった。

お姉様の車とあの時の車、同じ黒で形状も凄く似ていた。

「まさかね・・・・・・」

流石にただの思い込みだろう。あそこにお姉様が居るはずがない。

なんとか自己解決して、車の前を通りすぎ、ドアを開けようとした・・・・・・でも一瞬見てしまった。

右のバンパーに何かに衝突し、完全に直しきれてない凹みがあった。


「どうされましたの?」

「う、ううん!」
少しの冷や汗で濡れた額を制服の袖で拭い、私は車に乗った。

・・・・・・あれは見なかった事にしよう。じゃないと、今度は私の命が絶たれるかもしれないから。

「さて、行きますわよ?」

何かを感じ取ったように、ドスの聞いた声で私にそう告げて・・・・・・学校に向かう為に、車を走らせる。

触れては行けない真実を知った私は、この先の日常、未来が怖くなってきた。

偽りのお姉様と暮らす事が・・・・・・

全ては仕組まれた事だったのだから・・・・・・

「今日のお夕飯、どうしましょう?」
「そ、そうね!私はーー!」

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