背中合わせで根は同じ

作者:znsk0417yy
「鞠莉さん、一体何をしてくれてるんですか…」
「え?みんなが避暑地で合宿したいって言うから…夜中に拉致って連れてきたのよ」
鞠莉さんは「何か問題でも?」と書かれた顔をこちらに向けてきた。携帯で位置情報を確認してみれば、どうやらここは中央アルプスの付近らしい。通りで肌寒いわけだ。肩にかけられていたブランケットに体を包む。用意周到なことだ。
「鞠莉さん、せめて御家族には連絡を…最悪警察沙汰ですわよ?」
「あらダイヤ?マリーがそんなミスすると思う?御家族のpermissionなら…」
私の目の前に出されたのは合宿参加の同意書8枚。本当に、その労力を普段の業務に使って欲しい。
「ほら、みんなも起きてくる頃だしさ。マリーじゃ締まらないでしょ?ビシッと号令決めてちょうだい?」
「ん…寒っ…」
「ひゃあああ寒いであります無理無理ちかちゃあああん」
「うひゃっ!よーちゃんなんで…およ?ここはどこ?私は誰?」
「ん…千歌ちゃん、うるさ…千歌ちゃん?なんで私の部屋…寒っ!」
「んん…花丸ちゃん…」
「ルビィちゃん…」
「ずっと起きてたけど、何これ…」
慣れない寒さから本当に起き出してしまった。こうなると下手に動き回られるよりは確かに1度集合させた方がいい。
「Aqours、番号!」
「ふぇ!?い、1!」
「寒…2ぃ…」
「曜ちゃん、私のブランケット使って…あ、3!」
「…はっ、朝の掃除!…ずら?あっ、4ずら!」
「起きルビィ…5…」
「どういう状況…6」
「7、ですわ」
「8…ってダイヤ、鞠莉。どういう状況?」
「9、全員いるわね♪」
寝惚けた状態でも番号は馴染んでいるおかげですぐに集合してくれた。ルビィだけは、花丸さんと善子さんに抱き抱えられているけど…まぁいいですわ。
「鞠莉さん、皆さんに説明してください。というか私もよく分からないですし」
「OK,任されたわ!ここは小原家が持っていた中央アルプスの一角よ。みんなの要望に応えて合宿を開催するわ。ちょっとだけ手帳を覗かせてもらったのは、sorry♪」
「合宿?やったぁ!…あ、でも荷物…」
「私、お母さんに連絡してない…怒られる!」
状況が理解できると、次に生まれるのは不安だ。皆さんの表情が曇る。
「保護者への連絡は心配しないでください。鞠莉さんがちゃんと合意済みです」
「荷物も、御家族に協力してもらってちゃんと持ってきたから!後は、楽しむだけよ!ん〜、シャイニー☆」
鞠莉さんの声が木々を通り抜けこだまとなる。懸念が無くなったことで皆さんの表情は明るくなり、諦めるしかなさそうな嫌な予感が私の顔を緩ませる。
「ん〜、あそぶぞー!!!」
「あっ、千歌ちゃん待って!みんなも行こう!」
「あー、私あっちの2人監視しとくわ。ダイヤ、あとは任せた!」
「貴女も遊びたいだけでしょうが!…って、もう無理ですわね…」
「もう、ダイヤもせっかく伸び伸びできるとこまで来たんだからもっと開放的になりましょう?」
「はぁ…待ちなさいちびっこ組!未知の場所で急に居なくなるのはぶっぶーですわ!私達も同行しますから少々お待ちを」
ひとまず十徳ナイフや方位磁針、その他いくつか役立ちそうなものをまとめる。我が母は私の性格を熟知していて助かる。
「ダイヤは心配性ね!まぁいいわ、行きましょ!山の中も楽しいわよ〜!」
「って言うか、千歌ちゃん達はいいんですか…?迷ったりしたら…」
「平気ですわ。だって果南さんが着いてますもの。」
「昔から天体観測で山登りをよくしていたから、果南は多少の迷子や遭難なら対処できるわ」
「ルビィも昔よく助けてもらったよ!」
「それが無くても果南さんなら何とか出来そうなイメージあるけど…」
「マルもそう思う…」
果南さんをよく知らない3人は驚きを隠せないようでなんだか新鮮だった。鞠莉さんの言う通り、少しくらいは羽を伸ばせるかもしれない。


「わぁ、綺麗なお花…」
「善子ちゃんが滑った時はどうしようかと思ったけど、すごい綺麗だね…」
「ふふん、この堕天使には全てお見通しだったのよ!」
「こら、よっちゃん!みんなに迷惑かけたんだからちゃんとごめんなさいしなさい。怒ってないからって何も言わないのはダメだよ?」
「うぅ、ごめんなさい…もう勝手に先走って進んだりしません」
「ヨハネ、ちゃんと反省するならいいのよ?」
「えぇ、飛び出したのはぶっぶーですが慣れない地形を綺麗なフォームで走れたのは普段の練習の成果が出ていていますし、成果を見せてもらったということでトントンです」
散策しているうちに心がおおらかになったのか、多少のことなら怒る気も無くなっていた。それに、善子さんが滑ったのも不注意ではなく苔だらけの道だったから。どちらにせよ転んでいてもおかしくなかったし気にする事はない。
「それにしても梨子はヨハネの姉、いえ母親みたいね!」
「は、母親!?やめてください!」
「ふふっ、意外とお似合いかもしれませんわよ?」
「ダイヤさんまで…ヨハネそんなに子供っぽい?」
「うゆ」
「ずら」
「あんた達同級生でしょうが!」
善子さんが大きな声を出したせいでしょうか。それともそこまで深くに足を踏み入れていたのでしょうか。地鳴りのような低い、鳴き声。
「い、今の…何?」
「わんちゃんかな…」
「山なら狼かもしれないずら」
「ニホンオオカミは絶滅してますわ!山の中…最悪の場合…」
「Bearね、恐らく」
「熊…!あの、鳴き声は上の方だったので川を避けてこっち側に逃げれば…」
落ち着いた顔が多かったからか、冷静に対処する。梨子さんを先頭に私と鞠莉さんで殿を務め1年生を守る。従順な子達でよかった。
元のキャンプベースも見えてくる辺りに差し掛かった時だった。大きな物音が横から突然聞こえてきた。
「…っ、まずい横から来たわ!みんな、散って!」
「私が何とかしますわ!」
「ちょっと!?とにかくみんなバラバラにあそこに戻って!絶対よ!?」
私はできる限り引き付けてから逃げるつもりだった。が、熊は予想を遥かに超える速さで飛びついてくる。紙一重で交し、周りの枯葉に持ってきていたマッチで火をつける。すると向こうは攻めあぐねていた。そして突然、その体躯を地面に叩きつけた。
「ふぅ…やっちゃったわね。ダイヤ、怪我ない?」
「鞠莉さん、それは…」
「まじでシャレにならない電圧のスタンロッドよ。それより、早く戻るわよ。起きたら大変だもの」
「わ、わかりました…日も傾いてきましたし戻りましょう」


「あ、ダイヤさんに鞠莉ちゃん!」
「良かった…これであとはルビィちゃんだけね」
「!ルビィが戻っていないんですの!?」
ベースへ戻った私に伝えられた真実は恐ろしい事だった。こんな寒い所で暖をとる術もなく1晩…確実に死ぬ。
「っ、ごめんダイヤ。本当は私が探しに行きたいんだけど…」
「果南、貴女そのケガ…」
「あのね、崖から落ちそうだった小熊ちゃん助けてて…あそこにいるの、分かる?」
「千歌達がちゃんと助けてあげればよかったんだけど…」
果南さんは足に浅くない傷を負っていた。消毒をして、包帯を巻きながら梨子さんが口を開く。
「もう暗くなって危険だし、全員で動く訳にも行かないですよね…」
「…この事は、私が何とかしますわ。皆さんにご迷惑はかけません。」
「待って、マリーも…」
「貴女だってさっきの帯電で本当は危険なのでしょう?大人しくしていてください」
「ダイヤさん、深追いはダメずら。どんなに大切でも諦めることは頭に入れて置いてほしいずら」
「あの、一応私の荷物に大きめのライトあったから貸しといてあげる。…ルビィは絶対待ってるから…お願いしますっ!」
私を心配したり助けようとしてくれる仲間には感謝しかない。捜索に向かおうと身支度をしていると鞠莉さんが私に歩み寄ってきた。
「ダイヤ、これ持っていって。」
「…これは」
「私のお守りのネックレスなの。ちゃんと返してね」
鞠莉さんは正直に言わないが、要はちゃんと帰ってこいと念を押されているわけだ。
「えぇ、必ず。鞠莉さん、みんなの不安を取り払ってあげてくださいね。」
「任されたわ、それじゃ行ってらっしゃい」



「ルビィ、ルビィ!いるなら返事をしてください!」
善子さんに借りたライトで当たりを照らしながら虱潰しに探していく。ナイフで木に数を掘ることで迷子対策をしていく。しかしルビィの姿はなく、時間や方向感覚がない状態ではかなり精神的に辛くなってくる。
木に25まで掘ったあたりだった。
「いやぁあぁああああ!!!!」
かなり近くでルビィの叫び声が聞こえた。声のする方へ駆け出す。そこに照らし出されたのはルビィの前に立ち塞がる昼の熊。光を当てられ私の方を向く。
「ルビィ!今助けます!」
「お姉ちゃん!に、逃げて!」
熊のスピードとパワーに抗う術はない。私はライトを置き熊を煽る形でルビィから遠ざける。
「ルビィ!ライトを持って進みなさい!いくつかの木に等間隔で番号を振っておきました、それを数字が少なくなるように進んでいけば必ず戻れます!先に戻っていなさい!」
「待って、お姉ちゃんは…?」
「妹を守るのが姉の務めなのです!早く!」
ルビィの声が聞こえなくなるほど奥まで入り込み、向こうから火蓋を切ってきた。
確かに人間より野生動物の方が暗視には長けていると思うが、生憎私も得意だ。速さで敵わないなら頭で勝つ。予測しながら交しナイフで関節や腱の部分を攻撃していく。しかし向こうの速さはキレを増し、私の胸元に攻撃を当てました。が、私自身が傷を負う事はなく血液の代わりに飛び散ったのは光り輝く欠片。胸元では守るものを失い金具が変形しきった鞠莉さんからのネックレスが光っていた。本当の意味でお守りになるとは…。しかし熊は再びこっちへ腕を振り上げる。しかし私の前に黒い影が飛び出した。ベースで見た小熊だ。小熊が現れるなり、2頭は揃って私を置いて去ってしまった。
拍子抜けしながらも辺りを見るとベースのそばで、直ぐに戻ることが出来た。


「…!ダイヤ!ルビィだけ戻ってきたから心配したわよ!貴女熊と戦おうだなんて…止してよ」
「…鞠莉さん、申し訳ありません。貴女のネックレス、返せなくなってしまいました」
首から外して素直に惨状を見せる。すると何故か満面の笑みを浮かべてこちらを向く鞠莉さん。
「良かった、ちゃんとお守りになったのね!」
「鞠莉さん?これは大事なものなのでは…」
「えぇ、覚えてない?これは昔貴女が私を守ってくれる、ってくれたものよ?」
確かにそんなこともあった気がする。一緒の期間が長すぎてはっきりとは思い出せないけれど。
「それなら、私が守られるのは筋違いな気もしますが…」
「何言ってるの、ダイヤが万が一にも居なくなったりしたらマリーだって耐えられなくて後を追っちゃうわ。貴女が生きて戻ってくるのが1番マリーのお守りとしての正解よ」
「…そこまで思われているとは意外でしたが、ありがとう」
「No problem!皆の元に戻りましょ!心配してたんだから!」


皆さんの元に顔を見せると果南さんが泣きべそをかいている姿やルビィを取り押さえる善子さんの姿もありました。戻ってくるなりみんなに抱きつかれ、改めて自分のやった行為の無謀さを理解しました。その後みんなでご飯を食べ、念の為鞠莉さんが家から害獣狩りの専門家を呼んで護衛してもらいながらテントを張りました。
「鞠莉さん、テントの割り当てですが…」
「適当でいいんじゃない?どーせ綺麗に分かれ」
「いえ、私と一緒に寝てくださいませんか?とお誘いするつもりだったのですが…」
「良いけど、なんでマリーだけ?」
「なんだか今日は、貴女の温もりが恋しくなったので…あと、万が一を守らせてください。お転婆お嬢様」
「あら、ダイヤがデレたわ!…変なこと言わないでよ、貴女もお嬢様でしょう?…ま、守られてあげるわ」

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