戻れる宛もなく

作者:znsk0417yy
「お姉ちゃ、もっと…」
「ルビィ…んっ、はっ…んんっ…。
そ、そろそろ帰りましょう。あまりこんな事学校でするものではないわ」
「あっ…うん、今日は家戻っちゃうの?」
「そうね、ずっと空けておくのも嫌だし…」
ルビィと手を繋いで帰る。私はきっと最低な女だ。可能性に縋り付く壊れたルビィをこんな形で繋ぎ止めてしまった。そうやって私たちは静真高校を後にした。

バスの中でルビィが手を振るのも見えなくなったのを確認して、私は自分の目に触れる。すると張り付けた翠が取れて紅色が姿を現す。
私──津島善子は黒澤ルビィとの関係を他人事のように笑う。私は親友を、ルビィは自身を騙し続けるこの関係は深みに落ちていくばかりだ。
きっかけは…始まりは2年生の夏休み終わりだった。帰郷したダイヤが…いや彼女を責めることは出来ないが。
──半年前──
「お姉ちゃん…その人は?」
「私の恋人です。お父様とお母様にも紹介しようと思いまして」
ダイヤは好青年と手を繋いで帰ってきたのだ。彼は困っている人に手を貸し、幸せなことがあれば誰かと分かち合える本当に素敵な人だった。けれどルビィにはそれを受け入れるだけの覚悟がなかった。
「お姉ちゃんが…そんな…」
「ル、ルビィ?どうしたのです?」
「いやぁぁぁ!!」
ルビィは家を飛び出し単身淡島へと渡った。もちろんそれをダイヤも追いかける。登り慣れた階段の1番上で2人が向かい合った。
「ルビィ、突然連れてきて動揺しているのは分かります。でも…」
「聞きたくない!お姉ちゃんが…お姉ちゃんの1番がルビィじゃないなんて信じたくないもん!」
「待ってルビィ、話を…」
「うるさいっ!」
ルビィに突き飛ばされたダイヤ。運悪くその日は前日に降った雨の影響で階段は滑りやすくなっていた。踏み留まろうと力を入れたダイヤの足は空を蹴り階段を転げ落ち頭から強く打ちつけて動かなくなってしまった。
私たちの聞いた限りではルビィに関する記憶だけが失われたらしい。目を覚ましてもルビィに反応しないダイヤを見てルビィの心は砕けてしまった。
それからルビィは部屋に篭もり食事も満足に取らないまま数週間を過ごした。これ以上は見ていられないと私とずら丸で家に押しかけたある日の事だった。部屋に入るなりルビィは暴れ始め私に掴みかかってきて、そのせいでシニヨンが解けてしまった。
「…お姉ちゃん?」
「は…?何言って」
「お姉ちゃん、お姉ちゃんだぁ!」
「ルビィちゃん!?何言って…!」
ルビィは私をダイヤと勘違いし始めた。そうすることでしかもう現実と向かい合う術を持っていなかったのだろう。
「善子ちゃん…どうする気?」
「私は…ダイヤが戻るまでの間くらい付き合ってやってもいいと思ってる」
「きっと辛いよ?求められるのは絶対に善子ちゃんじゃないし、きっと居ないものになるずら」
「いいの。ルビィは私の堕天使を否定しなかった、笑わないでくれた。それなら私も、ルビィの幻想に付き合ってあげてもいいじゃない?」
私はその日にルビィの両親としっかりと話をして…晴れて、"黒澤ダイヤ"になった。お2人と無理に呼び戻した果南と鞠莉監修の元に癖や仕草、話し方やイントネーションをも詰められた。
しかしルビィにとってそんな些細な事は関係が無かったようだ。失った分愛情を取り戻そうとこうして国内外問わずハグやキスをせがむ。私はひたすらにそれを受け入れる。乱雑で稚拙で不快でしかないそれをダイヤの顔で受け止める。何度もやめてしまおうと思った。
「好き」
たったひとつこの台詞を吐かれるだけで私は気を持ち直しダイヤに戻る。
「ねぇルビィ。善子さんが居なくて寂しくない?」
「善子ちゃん?なんで休んでるんだろうね…寂しいよ?だって大好きだもん」
私に出来ることは、こうしてルビィから私の存在が消えないように種を撒き続けることだけだ。

SIDEルビィ
善子ちゃんがコンタクトを外した辺りで前を向いて席に座り直す。こうやって振り返るのはやめようと思っているのだけれど、善子ちゃんの鋭くも暖かい眼光が私の辛さを貫いて抉りとっていくから…今日もこうして手を振ってしまう。
私は、善子ちゃんをお姉ちゃんだなんて思っていない。そりゃ一瞬だけ見間違えた事はあったよ?でもあの後落ち着いて考えたらそんな事ないじゃんって。ならどうして私は姉妹の振りをして善子ちゃんとあんな事をしているのだろう。
簡単だ、まだお姉ちゃんの事に気持ちの整理ができていないからだ。私の中からすっかりと消えてしまったお姉ちゃんの愛という穴を埋めてくれるのは誰かの愛情であって。それなら形はどうであれ、それをくれる善子ちゃんと一緒にいるのは都合がいい。
それに、善子ちゃんならいつかバレてもきっと
「そんな余計なこと考えて、馬鹿ね」
なんて言って笑い飛ばしてくれる気がするから。
ある意味、私を忘れてしまったお姉ちゃんはありがたい存在かもしれない。その辺で綺麗なお花が咲いていたらそれを摘んでお見舞いでも行ってあげよう。思い出す可能性もあるだろうけれど、あの姉の姿を見ても私は笑顔でいられる自信が無い。
バスの窓の外で花丸ちゃんが歩いていく姿をみかけた。きっと善子ちゃんの元にいくのだろう。だって善子ちゃんは不幸だもの、空がこんなに黒々としているしそういう事だろう。あの二人はずっと私が壊れたと思って過ごしていくのだろうし私はそう演じて生きていく。この関係が崩れないように、今日も彼女へ種を撒く。
『大好きだよ』

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